おれはここにいるで(仮題)(3)

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(2)からの続き
ぼうずは「呑み終わった」のか、2人がまだ呑んでいる中、途中で抜け出し、「廃虚の電車の家」へ帰った。夜の9時である。

「電車の家」は、2両編成で約20人程が「住んで」いる。

「玄関」に当たる2両編成の前の一番前の扉を開けると、向かって左側の長椅子に“ぼうず”に声を掛けた老人が座ったまま「うたた寝」していた。が、「扉を開く音」に気付いたのか、顔を少しだけ起こして

『おう、帰って来たんか』

と“ぼうず”に声を掛けた。

すると彼は

『寝ますわ』

と、一言だけ言って、一番前の運転室へ向かった。

車内は、20人程が「それぞれのライフスタイル」に合わせて「改造」されている為に、通路が右にあったり左にあったりして歩きづらい。長椅子に布団を持ち込む人や、自分の場所を段ボールやベニヤ板で囲ったりして「寝場所」を作っているのだ。長椅子の無い「開かずの扉」の部分には「カセットコンロ」と「大きなプラスチック製の容器」と「水の入ったペットボトル」が置かれてさながら「炊事場」になっている所もあれば、「ゴミ袋」に「アルミ缶」をため込んで置いてある場所もある。彼はそれらを軽やかな足取りで交わしながら、「彼専用の部屋」である運転室へ入った。そこは「運転室」とは言っても「客室」との境目の仕切りは簡単なパイプだけで、左側だけが壁で仕切られている。その狭い空間に彼は入って行くと、丸椅子の上にベニヤ板を敷き、その上に薄汚れた布団を敷いて、それに乗って毛布を掛けて寝てしまった。完全には横にならずに肩を壁に、足を前の窓ガラスに架けて器用にバランスを取りながら「眠る」のである。

一人、また一人と「廃虚の電車の家」に「住人」が「帰って」来た。「住人」は40代以上の年配者が多い。中には「女性」も何人かいる。皆身なりはお世辞にも「綺麗」とは言えないが、ちゃんとしている。だが中には「穴だらけの服」を纏って、おおよそ「ゴミ」にしか見えない様な袋を「大事そうに」抱えて、段ボールとベニヤ板で出来た「部屋」に「逃げ込む」様に入って行く人もいる。

「食べ物」をむさぼり食う人、眠る人。隣の車内では、世間話に花を咲かせる人達や漫画雑誌を読んだりする人もいる。暗い車内は懐中電灯や蝋燭で灯りを得ている人の周りに「仄かな光」が広がっている以外は薄暗い。一部が割れた窓からは微かに「街の灯り」が差し込んでいるが、基本的にはこの「廃虚の電車の家」の周りは「建築用の冊」で覆われていて外からは見えない。この場所は昔はさる私鉄の支線があった場所で、廃線になって放置された電車に「勝手に住み着いている」だけなのだ。

冊には小さな入り口があり、内側から閉める事が出来る構造になっている。最初は閉める事が出来なかったが、“ぼうず”が「廃材」を利用して「閉める事が出来る」様に「改造」したのだ。

「廃虚の電車の家」の「住人」が寝息を立てている深夜に、一人の男が静かに自転車に乗って出かけて行った。彼は ここの住人に“ヒロやん”と呼ばれといる人で年齢は60代前半である。「廃品集め」で生計を立てており、話好きで意外と「物知り」である。毎日アルミ缶を20kg以上集めて来るのだが、アルミ缶の値段が1kgあたり100円なので日々の稼ぎは2千円にしかならず、空腹をまぎらわす為にいつも煙草を吸っている。「わかば」と言う銘柄で「この街」以外ではなかなか売っていない。値段は160円なのだが彼にとっては例え僅か160円とは言っても「大金」であり、よく「シケモク(吸いがら)」を吸う事もある。

「薄着」を5枚以上「重ね着」したいでたちで外へ出た瞬間

『寒ーー』

と一言呟きながら前輪と後輪のスポークの形状が違う自転車に跨がり夜の街に消えて行った。

大半の「住人」が起き出した。やはり午前4時である。しかし“ぼうず”は未だ夢の中である。彼は前日に一緒に仕事をした人から聞いて「今日は仕事が無い」という事を「事前に知って」いたのだ。彼の休日の過ごし方は、とにかくひたすら「寝る」事が多い。たまには「パチンコ」に行く事も有るが、彼はあまりギャンブルには興味が無いらしい。彼はいつもよりも遅い時間に目を醒ました。それでも朝の8時である。そしてしばらく煙草を吸いながら、ゆっくりと「眠気」を醒まして行く。そして一言

『今日はなんかおもろいこと無いかなーー』

と呟いて、「廃虚の電車の家」を後に一路「北」へ向かって歩き出した。

「廃虚の電車の家」のすぐそばには、「小さな商店街」がある。そこそこ活気付いている商店街で、人通りは絶えない。“ぼうず”は、そこを軽やかな足取りで歩く。

交差点を越え、さらに電車のガードの下を潜ると、商店街の道がさらに「狭く」なった。店は未だ空いていないが人通りは多く下手をしたら人同士がぶつかりそうだ。商店街のアーケードが切れると、ひたすら高くそびえている「搭」が彼の視界に飛び込んだ。「通天閣」である。そう。彼は「ジャンジャン横丁」を抜けて「新世界」へ来たのだ。

彼は「新世界」に入るとまっすぐに「いつもの(よくここへやって来る)映画館」へ入った。「旧作」しか上映しないがその分入館料が安い。そこは「終夜営業」しており早朝に来ても入る事が出来る。そして入館した後空いている椅子に「ドサッ」と座りそして眠ってしまった。一応冷暖房が効いているので「廃虚の電車の家」よりは「快適」に過ごす事が出来る。しかしながらこの芸当は「仕事に就ける確率が高く、尚且つ日当も高い」彼だから出来る事で、他の「廃虚の電車の家」に住んでいる人達にとっては「高値の花」なのは当然の事である。朝がまだ早い時間帯なので「客」は「まばら」位しか居ない。館内は当然暗く、「寝る」には「もってこい」の場所だ。

「あの街」の人達の「暇つぶし」は主に「眠る」事と「ダベる(世間話をする)」事である。その2つが「金のかからない暇の潰し方」だからである。(最も「ダベる」方は大抵「酒」が入る為に、やはり「金」がかかってしまうが)
とにかく「あの街」に住む人達は「金」が無いらしく、「金」のかかる事は嫌がる傾向にある。「金」があっても「食う」事だけで精一杯で、「娯楽」に回せるだけの「余裕」が無いのだ。せめてもの息抜きが「酒を飲む事」しか出来ないので、逆に「酒に呑まれてしまう」人が多く、それが原因で「仕事に就けない」人もいる位だ。

話を“ぼうず”に戻すと、彼はお昼時まで映画館で「眠って」いた。大きく腕を真っ直ぐ上へ伸ばすと同時に

『フアアーッ』

と「大あくび」をして立ち上がり、映画館を出て昼飯を食べる為に「新世界」の街中を歩き出した。やはり彼の「行き付け」の店の串カツ(焼き鳥にパン粉を浸けて揚げた物)屋に入って、ビールと串カツを注文した。やがて彼は運ばれて来た料理をゆっくりと食べ始めた。大ビン一本分のビールを飲みながら串カツを目の前に置いてあるソースの入った容器に浸けながらゆったりした調子でまるで楽しむ様に。串カツを3本程食べ終わった頃に早くもビールが尽き掛けた。すると彼は

『ビール中瓶追加や!』

と、すかさずビールを追加する。

彼の顔が「赤く」なった。
残りの串カツをさっきよりは多少早く口に運びながら、ビールを一気に飲み干し、それららが彼の前から無くなると、足早にその店を去った。

“ぼうず”の「休みの日」は「孤独」である。彼は実は「大阪出身」ではなく、さらに若いが故に「あの街」の住民とは上手くコミュニケーションが取れない。しかも彼自身の「攻撃的な(勝気な)性格」が災いして「仕事仲間」とも「トラブル」を起こす事がしょっちゅうあり、仕事中以外は「常に一人ぼっち」の状態なのだ。しかし彼は「表面上は」孤独を「気にしない」ように振る舞っているが、心の中では「話し相手」を求めているようだ。道端で「ダベっている」人を「羨ましそうな目つき」で見つめる事があるが、人前では「決して見せない」彼の「態度」である。

“ぼうず”は、明日から「長期の現場」に行く事が決まっていた。なのでしばらく「新世界」の街をぶらついた後、早めに「廃虚の電車の家」に戻った。夕方5時。空は午後から曇ったのか、既に薄暗くなっていた。

「廃虚の電車の家」に戻ると、入り口で“ヒロやん”とすれ違った。彼は“ぼうず”に

『ぼうず、お帰り。 今日は楽しかったんか?』

と声を掛けるが、“ぼうず”は彼の問いかけに対して「無言」で通り過ぎる。しかも彼と「目」を合わさない。まるで「無視したい存在」のようにすり抜けたがっている。しかし、彼は“ぼうず”の「気持ち」を察したのか、すかさずこう言った。

『あんときの事をまだ気にしとんのか? わしはもう気にしとれへんで』

と、「笑顔」を見せながら、その場を去った。

かつて“ぼうず”と“ヒロやん”との間で、些細な事をめぐって「喧嘩した」事もある位彼らの仲は悪かった。半年くらい前から「おとなしくなった」のだが、“ぼうず”はまだ気にしているのか、意図的に“ヒロやん”を避ける。
もっとも“ヒロやん”のほうは全然気にしていない。むしろ彼は“ぼうず”の「話し相手」になってやりたい……という態度を取るようになった。やはり「人生経験の長い」人物だからであろうか。喧嘩し敵対していながらも相手の「心の中」を察したようで、態度を変えたほうが「彼の為になる」と思い、それを「実践して」いるのだ。しかしながら、相手の“ぼうず”には「彼の思い」が残念ながら「伝わっていない」のだ。

翌日。朝4時半。

“ぼうず”は「大正建設」の箱バンの中にいた。
箱バンには、いつもより多く人が乗っていた。なじみの人の加え、はじめて見る人が何人か「混ざって」いる。

手配仕が“ぼうず”と同じく「若い」兄ちゃんに声を掛けた。どこと無く「ぎこちない」態度だ。しかも「作業着姿」ではない。しかしここでは「若い人」が不足している為、手配仕が「無理やり引っ張って」来た。

手配仕に「無理やり」連れてこられて来た「若い」兄ちゃんが乗って車のドアが閉まり「職安」を離れた。一番最後に車に乗った兄ちゃんは緊張したおももちで窓の外の薄暗い景色を眺めている。車は一旦「会社」へ寄った後、今度は「南」の方へ向けて走り出した。

起伏の多い所を車は駆け抜けてゆく。車の中の人は6人に「減って」いた。

車の窓から「不思議な形の搭」が見える。

程なくして「富田林」という町の「現場」に着いた。「大きな現場」である為「門」が設置されている。車が門をくぐるとプレハブで造られた「現場事務所」が見える。車はそこの前へへ止まった。中の人達は車を降り、「現場事務所」の一角へ入った。

一緒に来たとび職人が、コートを羽織っている「若い」兄ちゃんに声を掛けた。

『そんな格好で仕事できるのかいな!』

すると、彼は

『あっ! すみません。 着替えます』

と、小さな声で言った。
「若い」兄ちゃんが着ていた高そうな厚手のコートを脱ぐと、「作業着姿」になった。
彼は「大事そう」に、コートを鞄の中に仕舞いこんだ。

暫くたった。午前8時45分。ここで働く人達が「現場事務所」の前に集まってきた。
「朝礼」が始まる。まずは「ラジオ体操」だ。

音楽が鳴る。全員「ラジオ体操」を始めた。

「ラジオ体操」が終わると、この「現場」の「お偉いさん」が「現場の説明」を行った。
この「現場」で働く人たちが「職種」ごとに分かれて「作業内容の説明」を行う。

「大きな現場」は、数多くの「職種」によって構成されている。
この日も、約5グループに分かれて「説明」をしている。各グループはその「職種」を「得意」とする会社で、作業の進捗具合によって実にさまざまな会社が参加している。この日は「工事の初期段階」である為まだ会社数は少ないが、工事が「山場」を迎える頃には10や20といった会社が参加し、「立派な建築物」を作り上げるのだ。

「作業内容の説明」が一通り終わったら、「安全確認」を行う。「大きな現場」に付き物の、いわば「儀式」みたいなものだ。(勿論、「安全確認」は重要な「仕事」ではあるが)

この「現場」で働く人たちが皆集まり、大きな「輪」を作った。
すると「職長」が

『足元良いか!』

と大声で話す。と一同が

『足元ヨシ!』

と大声で返す。そして「現場」のみんなで

『御安全に』

と大声で話し、「朝礼」が終わった。

「大正建設」から来た6人のうち5人はここに「始めて」仕事に来た人達だ。彼らはすぐには仕事に掛かれない。「新規入場教育」を受けなければならない為なのだ。
彼ら5人は「現場事務所」に戻った。先程の「朝礼」で話した「お偉いさん」が、この「現場」の「詳細な説明」と「安全確認事項」を説明する。と同時に「入場書類」に「名前」や「生年月日」、そして「緊急時の連絡先(大抵は両親の連絡先)」を記入する。

“ぼうず”はこの手の「書類に記入する」のが「嫌い」だ。彼は

『あーー うっとうしい』

と呟いた。彼とよく仕事する40代のとび職人が

『まあまあ』

と、“ぼうず”の「ぼやき」を遮る様に言った。
おのおのが「入場書類」に「自分の情報」を書き始めた。それぞれが粛々と用紙に向かい、空欄を「生めて」行く。“ぼうず”の場合はこうである。「名前欄」には“浜岡 明”・「生年月日」は“昭和56年10月9日”・「緊急時の連絡先」には“千葉県銚子市……」という具合に記入された書類は「元請け」の大手建設会社(ゼネコン)の手で管理され、工事が終了するまで保管される。万が一「大怪我」をした時は、「緊急時の連絡先」に連絡される事になっている。

一人、また一人……と、書類が書き上がって行く。しかし、慣れていないのか、2人がまだ書き上げていない。
その2人とは、今朝「ぎこちない」態度を取った20代の男と、175cm位ある長身の男である。「長身の男」は以前からこの「現場」に来ていた「職長」のとび職人に「この仕事(とび職)には向いていない」と言われていた「元タクシー運転手」で、名前は“高杉 徳”と言っていた。年齢は35歳である。「現場」ではむしろ“だめとび”のあだ名で呼ばれている。彼はこの業界に入って3年半になるが、とにかく覚えが悪く、いつも仕事仲間の「足を引っぱって」いる存在なのだ。「職長」の“津嶋”は

『えらいやつが来たなぁ……』

と呟いた。

《(4)へつづく》
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Commented by 村石 太 38号 at 2009-11-04 13:38 x
アルミ缶 集めで金にするのは大変です。昔 日払いの仕事で1万ぐらいのもあった。
by looking_day | 2007-12-01 22:28 | (小説?を)書いてみました | Comments(1)

「鬱々」が晴れない世界で生きている僕の「雑記帖」ブログです。(都合により不定期更新。書くときは毎日、複数回更新しますが、更新が渋るときもあります。ご容赦ください)


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